ユーリは一瞬、殴られて怪我をした自分の為に呼んでくれたのかと思ったが、勿論そんなわけはなかった。

 ユーリには見向きもせず、医者はそそくさとアジトの中へ入っていく。 ザネリが後に続き、入ってこようとするロビタの鼻先で扉を閉める。

「お前たちは外にいろ。いいと言うまで入ってくるな」

 ロビタはしばらく拍子抜けしたように、目の前で重い音を立てて閉まった鉄の扉を眺めていた。
 その間にユーリは、落ちたキャップと洗濯物を拾い、砂を払い落として、ロープに干す作業を再開した。

 あらかた干し終わると、ロビタが面白くなさそうな表情でこちらにやってきた。

「あいつはズルい」

 そうロビタは呟いた。
 何の事だよ、とユーリはロビタを見た。

「あいつは、毎日ああやってなにもせず、寝そべってるだけだ。それなのに、ちょっとダダこねるだけで、いしゃが呼ばれる。 何でかわかるか? おれやおめえと違って、あいつはきれいだからだ」

 俺とお前を一緒にするな、と思わずユーリは言いそうになるが、頬の痛みがそれを思い留まらせる。

 ロビタは何かにとり憑かれたかのように、ブツブツ続けた。

「あいつはズルい。ただきれいに生まれついただけのくせに……」

 子供の笑い声がして、ユーリは顔を上げた
 見ると、小学生くらいの子供が四、五人、甲高い笑い声を上げながら、美しいモザイクの道を走ってくるところだった。

 子供たちは岩窟の陰にいる二人に気づくと、ピタリと立ち止まった。

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