しばらくすると、ザネリは医者と共に、外に出てきた。
洗濯物の下に座り込んでいる二人を一瞥し、ザネリは言った。 「ちょっと行ってくる。夕飯までには戻るよ」 二人は返事をしなかったが、ザネリは気にも留めなかった。 ザネリと医者は連れ立って、港の方へ歩いていった。港へ下る坂道は下りずに途中で曲がると、やがて高台にある公園に着く。 公園と言っても、無料で入れる植物園と展望台のようなものだ。幅のある壁が丸く植物園を囲っていて、壁の上は人が歩けるようになっている。 二人は展望台へ上り、景色を見下ろした。 灰色と緑色が混じった青い海に、そこへ続く斜面に作られた葡萄畑。 ここから見下ろすと、港の地面にはモザイクで、古代の漁の様子が画かれているのが分かる。 真っ青な空に浮かぶ太陽が、それらを細部まで明瞭に照らし出している。 「綺麗だよねえ、ここは」 花柄の陶器片で覆われた、赤い羊の形のベンチに腰かけ、医者は言った。 「普段都会で暮らしてると、心が洗われるよね」 「首都の様子はどうだい」 立ったまま、ザネリは尋ねた。医者は笑った。 「うん。まあ、この一ヶ月で、驚くほど変わったよ。今じゃ毎日、警官が交通整理と街のパトロールをしてるし、 失業者たちは治水工事の仕事にありついている。ムジカにくっついて甘い汁を啜ってた軍上層部はどんどん追放されているし、 不当に投獄されていた政治犯や思想犯の釈放も始まった」 「ほう」 -------------------------------------------------- |