「あのミトってのは、噂に違わぬ名君だよ。民衆からの支持も抜群」 ザネリは皮肉げに口元を歪めた。 「そうやって崇め奉られる一方で、民衆の見ていないところでは、人間を食っているわけか。 そのうち『人間農場』がユーラクにも出来るんだろうな」 「反グール主義者みたいなこと言うね」 「本当のことだろう。どんなに聖人君子面しても、奴は所詮、グールなんだから」 沈黙が下りた。 二人の前を、若い恋人同士が、腕を組んでゆっくり歩いていった。 二人が通り過ぎていくと、医者は口を開いた。 「あのイオキと言う子はグールだよ。間違いない」 ザネリはさして驚いた風でもなかった。 むしろ、衝撃を受けた表情をしているのは、医者の方だ。 ザネリは尋ねた。 「あれから採取した血液を顕微鏡で見ただけで、断定出来るのか?」 「うん。グールと人間は見た目こそ同じだが、中身は全く違うんだ。 私は大学病院に保管されていたグールの血液サンプルを見たことがあるから、間違いないよ。 君、一体どこであの子を拾ってきたの?」 -------------------------------------------------- |