「悪いことは言わない」

医者は真剣な表情で言った。

「あの子はここへ置いて、ユーラクから逃げろ。ミトはユーラクにおける人身売買を禁止した。 もう、ムジカの時のように自由には動けない。しかも、よりにもよってグールを売買しようとするなんて……  捕まったら、死刑じゃ済まされないよ」

ザネリは笑った。

「分かってる。だから、エイゴンへ行くさ」

「それにしたって、グールを買ってくれる所なんて……」

「なに、グールとバラさなきゃいい。あれだけ可愛い顔をしてるんだから、買いたがる奴は大勢いるだろう。……ああ、それとも」

 ザネリは思いついたように言った。

「あえてグールであることをバラして、反グール主義テロリストに売ると言う手もあるな。グールとの取引に使うも良し、慰み者にするも良し」

 医者は黙った。
 この件に関して、人買いザネリに何か言っても無駄だと悟ったからだ。
 代わりに、彼は言った。

「あの二人も商品なの?」

 ん? とザネリは一瞬僅かに狐目を開き、ああ、と、つまらなさそうに呟くと、星の形の手すりに寄りかかって海を眺めた。

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