その、いかにも自身ありげな態度を見たミトは、一瞬、彼にイオキ捜索を任せようかと考えた。
 キリエやレッド・ペッパーを信用していないわけではないが、しかし、イオキが失踪して、すでに二ヶ月近く経つ。 事を秘して少人数で捜索に当たらせるのも、もはや限界なのではないか。

 しかし、ミトはすぐに考えを改めた。彼は優秀ではあるのだろうが、どこか信用出来ない匂いがする。

 ミトは静かに、だがきっぱりと、トーベに告げた。

「それでは、しばらくは、大人しく休んでいたまえ。君たちは何千人、何万人という思想犯を投獄し、ムジカの治世に貢献してきた。 その任務遂行能力を失うのは惜しい。然るべき場所を用意しよう。だが……」

 海のように青い瞳が、不意に光り瞬く。

「もしもまた、不審な行動が報告されたら、君たちの居場所はない。覚えておきなさい」

 トーベは何か言おうとする素振りを見せたが、結局、口髭が動いただけだった。 手を体の後ろで組み直すと、トーベはチラリとコジマを見た。コジマは何も言わず、彼を見返した。 トーベはにやりと笑うと、黙って頭を下げ、部屋を出て行った。

 執務室の扉が閉まると、コジマは立ち上がり、赤い液体の入った瓶を取った。
 コルクを抜くと、むせそうな、新鮮な血の匂いが広がる。 今朝ワルハラの農場から輸送されてきたばかりの、新鮮な血だ。
 コジマが中身をグラスに注いで渡すと、「ありがとう」とミトは受け取って口をつけたが、その表情は晴れなかった。

「ユーラクに、人間農場を作ってはいかがでしょうか」

とコジマは提言した。

「ミト様が農場産の家畜しか召し上がらないのであれば、そうした方が、より新鮮な食物を手に入れることが出来ます」

ミトは微笑んだ。

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