「だが金のかかる事だからね。ユーラクの財政に余裕が出来るまでは、難しいな。それに、余裕が出来る頃には、 僕はワルハラに帰っているだろう」

「けれどあなたが人間農場というシステムを残していけば、何年か後にここを統治されるムジカ様の御子息が、 そのシステムを使うかもしれません」

 コジマはそう言うと、少し黙った。

「……勿論、使わずに、狩りによって食料を得ようとするかもしれませんが」

 ミトはグラスを掲げる手を止め、コジマを見た。
 手元の赤い液体を見つめるコジマの表情は、目を伏せているせいか、ひどく謎めいて見えた。

「同じグールで、支配者であっても、こうも違うものなのですね」

ミトは冗談めかして言った。

「グールの中じゃ、僕が変わり者なんだ」

「ええ、知っています」

 コジマは顔を上げた。その表情は、いつもと同じく、静かで事務的だった。 小首を傾げて発せられた問いも、優秀な生徒が教師に質問するようだった。

「他国の領主も、多かれ少なかれ、ムジカ様と同じと聞いています。国民を自分の餌としか思っていない、自分の為の政治だと。 その中で何故、ミト様だけが、人間の為の政治をなさっているのですか?」

 ミトは窓の外に目をやった。

 今や金の太陽を描いた白い旗は消え、代わりに白馬を描いた青い旗が、議事堂のてっぺんにはためいている。

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