「……結局のところ、僕だって自分の為の政治だよ」

 やがて、ミトはゆっくりと、言葉を選ぶように答えた。

「ただ、北風を吹かすよりは、太陽で照らした方がよっぽど賢い、そう思っているだけだ」

「そして、実際、世界で最も上手く、人民を支配していらっしゃいます」

コジマは言った。

「けれど、そもそもどうして、そのような考え方をするに至ったのですか?  ワルハラの先代領主も、ムジカ様に負けず劣らず残虐な方だったのでしょう?  一体誰から、そのような考え方を教わったのですか?」

 誰から?


『お前はこれまでのグールのようであってはならない。人間を思いやった、人間の為の政治を――』


 そう、そして僕は作った。
 グールの為の人間農場。人間の為の人間農場。誰も悲しまない、誰も苦しまない完璧なシステムを。

 ――けれど本当は、知っている。
 どんな完璧なシステムも、立派な王も、全ての民人を幸せにすることなど、出来ないと。 大多数の人々が歓迎の声を上げる足元で、泣き叫び、怨嗟の声を上げ、地面を這いつくばる者が、いるのだと。


 もしも私が王という名の囚人でなければ、それらの声に責め苛まれることもなく、あの子の優しい声だけを聞いて、深い森に住むことが出来るのに。


「……コメントを作成する。用意してくれ」

 血で湿った唇を舐めて、ミトは言った。コジマは黙って、頭を下げた。
 新鮮なはずの血は、唇の上で、微かに腐臭を漂わせた。

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