フラッシュから隠れようと掲げた指の間から覗く、息をしていない自分の、漆黒の瞳。
 まるでその瞳に引っ張られるように、視界がぐにゃりと歪む。
 吐き気を催したレインは、新聞を投げ捨て、両手で頭を抱えた。

「レイン!」

すぐさま気がついたルツが腕を伸ばし、レインを胸に引き寄せる。

「大丈夫よ、大丈夫」

 優しい声でルツが繰り返す間にも、玄関のピンポンは鳴り止まない。「セノさん、ご在宅ですか」と声が上がる。

 マリサがそろそろと手すりから顔を出し、玄関先を見下ろして、目を丸くした。

「カメラやマイク持ってる人がいっぱいいる。それに、変なプラカード持った人たちも、沢山」

「あのニルノって人、顔写真は載せないって約束だったのに」

ルツはぎりり、と唇を噛んだ。

「しかも、この子と農場の関係は話してないのに…… 一体、どうやって調べたのかしら」

 鳴り止まないピンポンや、人々のわめき声、カメラのフラッシュが焚かれる音。それらは一体となって、 レインを恐ろしい極彩色の渦に引きずり込もうとするようだ。 何とかそれらから逃れようと、レインは脳みそが痛むくらいに、きつくきつく耳を塞いだ。

 その様子を見て、ルツが言った。

「とにかく、ここは五月蝿いわ。中に入って考えましょう」

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