「警察が来るぞ」

 不意に、低い、しゃがれた声がした。

 レインとマリサとルツは振り向いた。

 そこには、ダンボールに腰かけ、前髪が膝にかかる程腰を曲げたルツの父がいた。

「警察?」

 ルツが言うと、老人は床を見つめたまま、ぼそぼそと、だが妙に明瞭な声で呟いた。

「その子の存在は、ワルハラ国民が普段忘れている、人間農場についての問題を浮かび上がらせる。ミトにとって邪魔な存在だ」

「だから逮捕するって言うの?」

ルツは驚きと怒りの混じった声を上げた。

「そんな、ここはアンブルやユーラクじゃないのよ。そんな理由で逮捕出来るわけないわ」

「その子が人間ならな」

 と老人は言った。

 恐ろしい沈黙が下りた。

 レインは漆黒の瞳を見開き、じっと老人の言葉を聞いていた。

「その子は果たして人間か? 家畜か? ミトは国民の人権を保障しているが、だがそもそもその子に、人権はあるのか?」

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