「じゃあ、嫌な宿題は、しなくていいんだね!」 「御冗談を」 がっくりとマリサは肩を落とす。 「それとこれとは、話が別です。言ったでしょ。終わらせない限り、田舎のおばさんの家には連れて行かないって……」 そこではたと、ルツは何かに気づいたような表情になった。 「そうか…… 田舎に避難、という手もあるわね」 「?」とマリサは首を傾げ、ルツを見上げる。レインも首を傾げた。 マリサによれば、「いなか」と言うのは、毎年夏にルツたち一家が、一週間ほど遊びに行く場所のはずだ。 ルツの表情が、ぱっと明るくなった。 「そうだ、それがいいわ。マスコミや野次馬はともかく、さすがに、警察に対して篭城決め込むわけにはいかないもの。 さっさと奴らが来る前に逃げて、先のことは、それから考えればいいのよ」 「おばさん家に行くの?」 マリサが興奮した声を上げる。 「まだ、宿題終わってないよ?」 「宿題は持っていきなさい。さあ、いつ警察が来るか分からないわ。すぐに準備しましょ!」 にわかに、重苦しい雰囲気だった地下工房は、沸き上がった。きゃあきゃあ騒ぐ娘と共に、ルツは張り切ってレインの腕を取る。 すると、老人がぼそっと呟いた。 「駅までは、どうやって行くつもりだ?」 -------------------------------------------------- |