うっ、とルツの動きが止まった。

「一歩でも外に出れば、マスコミに捕まるぞ」

 それは…… と、ルツは口ごもる。流石の彼女も、咄嗟にアイデアが出ないようだ。 階段を上がりかけていたマリサが振り向き、不安げに母親を見守る。

「それは…… そうね……」

 マリサと共にルツを見守っていたレインは、ふと、裏の川から、妙な音が聞こえた気がして振り向いた。 何か大きな物が、壁にぶつかったような音だ。
 川に出入りする為の窓には遮光カーテンがかかっていて、外の様子はぼんやりとしか見えない。 ルツに腕を取られたまま、レインは神経を集中させ、じっとカーテンの向こうを見つめた。

 と、カーテンの向こうで、何かが動いた。
 レインはぎょっとして、思わずルツの手を掴んだ。
 「どうしたの?」と尋ねるのと同時に、窓をどんどんと叩く音がして、ルツも息を呑んだ。

「けいさつ?」

 怯えたマリサが、ルツにしがみつく。 ルツは無言で様子を窺っていたが、やがて作業台から鋭いキリを取り上げると、ゆっくりと窓に向かって進み出した。

 レインとマリサは、手を握り合って、その様子を見守った。

 窓を叩く音は止まない。

 窓際まで来たルツは、キリを片手に、勢い良くカーテンを開けた。

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