イオキは目を背けた。

 ユーリは構わず、魚の尾頭を切り落とし、腸を抜いていく。

 ほんの一ヶ月程前まで、ろくに包丁も握ったことがなかったのが、嘘のような手さばきだ。料理だけではない。今のユーリは破れた服を繕うことも出来るし、石鹸一つで洗濯することも出来る。

 やりたくて、やっているわけではない。役立たずは殺す、と常に言われているだけのこと。

「おい、はやくしろよ。おめえのねぼうのせいで、朝飯がおくれてんだぞ」

 と、石のベッドとは反対の方向から声が上がり、ひょこひょこと人影が近づいてきた。

 ユーリはぐっと息を止めて答えた。

「すぐに出来るよ」

 落ち窪んだ眼窩に、痩けた頬、極端な猫背に、骨と皮ばかりの体。まるで骸骨のように醜い男が、爪先でユーリを小突く。

「おめえ、こんどねぼうしたら、起こしてやんねえからな。そのままくびかっきって、二度と起きられないようにしてやるからな」

乱喰い歯をむき出して、男は笑う。
 ユーリは黙って魚を火から下ろし、固い塩味のパンを切り分け、四枚の皿に分けた。
 男はすぐさま自分の分を奪うと、がつがつ食べ始めた。 ユーリは皿を二枚持ち、一つをイオキの足元に、もう一つを、ベッドの横で新聞を読んでいる男の所へ運んだ。

 ユーリが皿を持っていくと、男は新聞から顔を上げた。

「いやあ、腹がペコペコだよ」

 人買いザネリはそう言うと、狐目でにこやかに笑った。

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