イオキは悲鳴を上げ、皿を弾き飛ばした。 重い陶製であるはずの皿は、イオキの細い指先がかすった途端、まるで紙飛行機か何かのように宙を舞った。 ザネリたちが、何事かと振り返る。イオキの悲鳴が玉虫色の牢獄に反響する中、皿は入り口の扉に向かって飛ぶ。 次の瞬間、扉が蹴破られ、ザネリたちは一斉にそちらを向いた。 扉を蹴破ったのは、ユーラク軍でも警察でもない制服を着、口元をスカーフで覆った、若い男だった。 その手に握られた大振りの拳銃の銃口は、まっすぐザネリに向いていた。 ザネリは咄嗟に懐からナイフを取り出そうとしたが、遅かった。 ザネリがナイフを投げるより早く、男が引き金を引く。 同時に、男の顔に、パエリヤの皿が直撃した。 「うわああっ!」 熱々のサフランライスを顔に浴びて、男は思わず拳銃を取り落とした。その胸に、ザネリの投げたナイフが突き刺さった。 膝をつくより早く、背後から蹴り倒され、男は床に転がった。 「さあ、かかれ、かかれ、太陽沈まぬ砂漠の犬どもよ!」 高揚感溢れる掛け声と共に、男の死体を越えて、同じ格好の人間が何人も、部屋の中に入ってくる。 「人買いザネリとその一味は殺せ! グールの姫には傷をつけるな! 我らが真の主に、麗しき生贄と赤き血を捧げるのだ!」 -------------------------------------------------- |