煙と共に部屋に充満していく、人間が、焼ける臭い。かつて食卓で、毎日のように嗅いでいた臭い。


 美味しそうな、肉の匂い。


 と、突然、目の前に人影が立ちはだかった。

 イオキはベッドの上から、ゆっくりと人影を見上げた。いつも彼が使っている包丁、次いで、狂気的な光を帯びた瞳と、目が合った。

 乱暴に手首を引っ張られ、イオキは前につんのめった。悲鳴を上げる間もなく、首を締められた。

「や、や、止めろ!」

 ベッドに乗り上げ、イオキの首に腕を巻きつけたのは、ユーリだった。イオキの頬に包丁を突きつけ、ユーリは、 がちがちと歯の根も合わぬ声で叫んだ。

「皆、出てけ! 出てかなきゃ、こいつを殺してやる!」

 一瞬にして、部屋中の視線はユーリに集中した。

 制服の男たちは、戸惑ったようにその動きを止めた。てめえ…… と頭から血を流しながらロビタが唸り、 油断なく秘密警察へナイフを構えたまま、乱れた息でザネリが笑う。

「やれやれ、一本取られたな」

「五月蝿い! 俺は本気だ!」

 狂人の形相で、ユーリは喚いた。

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