喚いた拍子に、包丁の切っ先がイオキの頬に触れる。切っ先は、いとも呆気なくイオキの柔らかい頬に埋まり、 蛇苺のような血の玉が、青白い頬に咲く。

 ユーリがはっと身じろぎするのを、イオキは感じた。

 と、その時、声がした。

「小僧、その手を離せ。その方を誰だと思っている?」

 一人の男が静寂を破り、悠々とした足取りで部屋へ入ってくる。 半月刀を提げた男たちと同じ制服を着ているが、腕には立派な腕章をつけている。
 口元のスカーフを取ると整えられた口髭が現れ、その下の唇がにやりと歪んだ。

 男は部屋の真ん中で立ち止まると、両手を後ろに組み、ザネリの方を向いた。

「そう、グールだ。お前の古い友人が診断したようにな」

半月刀の切っ先を喉元に突きつけられたまま、ザネリは肩をすくめた。

「俺を売ったのは、あいつか?」

「左様」

「そうか。まあ、信用していたわけじゃない。 しかし密告されて、まさかその日中に追手が来るとは思わなかった」

 ザネリは狐目を片方だけ開くと、男の腕章にやった。

「流石、砂漠の猟犬と呼ばれたユーラク秘密警察だ。
だがおかしいな。ユーラクの秘密警察は、ミトによって解体させられたと 聞いていたんだが」

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