トーベは歯をむき出した。白い歯が、かまどの炎に照らされ、金色に燃え上がった。

「ミトなど、仮初の領主に過ぎん。砂漠の猟犬は、真の主、沈まぬ太陽の命しか聞かぬ」

 そう言うと、トーベはやおら、背中に回した右手を持ち上げた。
 白い手袋に包まれたその手には、古風なデザインのピストルが握られている。

 トーベはユーリの頭へ銃口を向け、ゆっくり歩き出した。

「お喋りはここまでだ。さあ小僧、その方をこちらへよこせ。その方は、お前の薄汚い手で触れて良いようなお方ではない」

イオキの顔に包丁を突きつけ直し、ユーリは叫んだ。

「くっ……、来るなっ!」

「はは、どうした。手が震えているぞ」

 にやにや笑いを浮かべながら、トーベは無造作にこちらへ近づいてくる。

 ユーリの鼓動が、早鐘のように鳴る。

 銃口が、銃口が。

 最後に残した僅かな冷静さまでも失い、ユーリは包丁をイオキの顔から離すと、喚きながらトーベに向けて振り回した。 刃は虚しく、立ち止まったトーベの目の前の空間を、掻き乱した。
 トーベの顔いっぱいに、にやにや笑いが広がった。

「死ね」

 トーベが言うのと、ビーズ刺繍の緋色の衣が翻るのと、同時だった。

--------------------------------------------------
[343]



/ / top
inserted by FC2 system