トーベは歯をむき出した。白い歯が、かまどの炎に照らされ、金色に燃え上がった。 「ミトなど、仮初の領主に過ぎん。砂漠の猟犬は、真の主、沈まぬ太陽の命しか聞かぬ」 そう言うと、トーベはやおら、背中に回した右手を持ち上げた。 白い手袋に包まれたその手には、古風なデザインのピストルが握られている。 トーベはユーリの頭へ銃口を向け、ゆっくり歩き出した。 「お喋りはここまでだ。さあ小僧、その方をこちらへよこせ。その方は、お前の薄汚い手で触れて良いようなお方ではない」 イオキの顔に包丁を突きつけ直し、ユーリは叫んだ。 「くっ……、来るなっ!」 「はは、どうした。手が震えているぞ」 にやにや笑いを浮かべながら、トーベは無造作にこちらへ近づいてくる。 ユーリの鼓動が、早鐘のように鳴る。 銃口が、銃口が。 最後に残した僅かな冷静さまでも失い、ユーリは包丁をイオキの顔から離すと、喚きながらトーベに向けて振り回した。 刃は虚しく、立ち止まったトーベの目の前の空間を、掻き乱した。 トーベの顔いっぱいに、にやにや笑いが広がった。 「死ね」 トーベが言うのと、ビーズ刺繍の緋色の衣が翻るのと、同時だった。 -------------------------------------------------- |