ユーリに首を締められたまま、イオキは足を振り上げた。足首に赤い痣のついた、足を。
 重い鉄の鎖が持ち上がり、一直線に張り詰める。鎖に引っ張られ、細い足首が、折れそうになる。

 が、次の瞬間、バキン、と音を立てたのは、鎖の方だった。

 途中で切れた鎖は、引っ張られた勢いのまま、イオキの足首から蛇のように鎌首をもたげ、トーベの顔に襲いかかった。 トーベが避ける間もなかった。鎖の先端はトーベの口元を直撃した。

 何が起こったのか分からないまま、唖然とするユーリを、イオキは渾身の力でベッドから押した。

「逃げて!」

 同時に、ザネリも動いた。呆気に取られる秘密警察たちの一瞬の隙をつき、半月刀をかいくぐると、 一人をナイフで刺し、もう一人をトレンチナイフのナックル部分で殴り倒す。 ナイフの先は、そのまま、痛みと衝撃で思わずピストルを取り落としたトーベへ向かった。 トーベは咄嗟に部下の死体から半月刀を拾い上げると、それでナイフを受けた。

「グールを逃がすな!」

何度も繰り出される鋭い突きをかわしながら、ぐちゃぐちゃになった口元で、トーベは叫ぶ。

 イオキに背を押されたユーリは、ふらつく足取りで、二、三歩、前へ出かけた。足首から鎖をぶら下げたまま、 イオキは彼の背中を見つめた。

 と、ユーリが振り向いた。

「走れ!」

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