ユーリの手が伸び、イオキの手首を掴む。引っ張り上げられるままに、イオキは立ち上がろうとしたが、長期間の拒食と運動不足のせいか、 ベッドから下りた途端、膝が崩れてしまう。
 ユーリの顔が一瞬歪んだが、しかし彼はイオキから手を離さず、無理矢理立たせると、肩を貸し、戸口に向かって走り出した。

「いかせねえ!」

 必死に走る二人の行く手を、ロビタが塞ぐ。

 思わずユーリは立ち止まり、両の拳を握って仁王立ちするロビタを見つめた。
 イオキも一緒に見た。その背後から、秘密警察の一人が、ロビタのほとんど毛のない頭へ、半月刀が振り下ろすのを。


 危ない、とユーリが声を上げようとした気配があった。

 実際上げていれば、ロビタは敵の攻撃を避けられていただろう。

 しかしユーリは、口を中途半端に開けたまま、止まった。


 半月刀がロビタの頭を割る寸前、よろめく足取りで、イオキは前に飛び出した。 体当たりするようにしてロビタを突き飛ばし、頭上に迫る刃へ手を突き出す。

 誰もが、その細い手首が切断され、宙を舞う光景を思い浮かべただろう。
 しかしイオキは伸びた長い爪で、刃を受け止めた。
 その、人間ではあり得ない芸当に、ユーリだけでなく、ロビタも秘密警察も目を見開く。 その隙をついて半月刀を弾き飛ばすと、イオキは鋭い爪を、相手の目に向けて振った。

 真っ赤な血が、一直線に宙を舞う。半月刀を取り落とし、秘密警察は目を覆って悲鳴を上げる。

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