やがて、ぽつりとニルノは呟いた。

「謝ります。今回の件は、全て、俺が悪いです」

 しかし、次の瞬間、何かを決意したような表情で、ニルノはまっすぐルツを見た。

「でも、これだけは信じてください。俺は決して、あなたやレインに害を与えようと思って、あの記事を書いたわけじゃない。 俺は、皆に訴えたかったんです。このままでいいのかって。人間農場で生まれる家畜たちを犠牲にして、幸せな生活を送ることが、 果たして正しいことなのかって。俺はタキオみたいに、直接何かを変える力は持っていません。でも、 写真と文字によって改革の火種を熾すことが出来る。そう信じているから」

 信じている場合か、とルツは言いたかった。
 信念を持って行動するのは大いに結構だが、その結果、うちは大迷惑しているのよ、と。

 しかし彼女は、何も言わなかった。
 呆れて言葉も出なかったから、ではない。 ニルノのその瞳が、その声が、もやもやとした怒りに、一石を投じたからだ。

 彼らもこんな瞳をしていたわ、とルツは思った。灰色の瞳は道化の仮面をかぶり、金色の瞳はさらに澄んでいたけれど。


 周囲を惑わし、周囲から惑わされ、それでも己の信じるが道へ進もうとする人々の、なんと愚かで、美しいことか。
 そしてその瞳に見つめられた時、なんと私は、彼らを遠くに感じることか。 彼らから伸びる長い影の端に触れ、孤独と寂寥感を覚えることか。


 ルツは手のひらの下の、痩せて骨ばった肩が、熱くなっていくのを感じていた。 タキオとロミの名を聞いて、レインがあの、燃えるような夕日に包まれた情景を、思い出しているのだった。

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