「けどまあ、高けりゃ高いほど、無賃乗船のありがたみが増すってもんだ」

 人ごみを抜け、ようやく船尾近くまで来ると、タキオは立ち止まった。

 立ち入り禁止の鎖で区切られた区画の向こうで、クレーンで甲板に下ろされていく積荷を、作業員たちが次々と船体へ運び入れていた。
 昼の高い日差しが海面と純白の船殻に照り返され、空気は重く湿り、風もない。 そんな中で、真っ黒に日焼けした作業員たちは、いかにもさっさと仕事を終えたいという風に、汗だくになって仕事をしていた。

 タキオは顔をユニコーン号の方へ向け、目だけで彼らの様子を観察していたが、やがて二人に目配せした。 ニルノは写真を撮るのをやめ、ロミは顔を引き締めて、頷いた。

 タキオがつとその場を離れると、ロミはその場に崩れ落ちた。同時に、ニルノが喚く。

「うわあ、日射病で妹が倒れた! 誰か助けて!」

 あまりの大根役者っぷりに、棕櫚の木陰に身を隠したタキオは、「おいおい」と胸の中で呟いた。
 周囲の見物客たちが何事かと注目する中、ニルノは鎖の向こうにいる作業員に呼びかけた。

「すいません、妹が死にそうなんです! 助けてください!」

日射病なら、木陰に連れて行ってジュースでも飲ませりゃ治るよ、と面倒臭そうに作業員は言ったが、ニルノは食い下がり、ますます騒いだ。 あまりの騒ぎっぷりに、他の作業員たちの目がそちらに向く。

 今だ! と、タキオは木陰から飛び出し、鎖を飛び越えると、クレーン車に向かって走った。

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