ダッシュを助走にし、タキオはそのまま、クレーン車に跳び蹴りを食らわせた。特殊合金の使骸が元々持つ力に助走の力が加わり、 十トン以上あるクレーン車が、前方向へぐらりと傾く。突然前屈みになった車体にクレーンの操縦者が大声を上げ、周囲の作業員が こちらを振り向くより早く、タキオはクレーン車の後ろに身を屈めた。

 クレーンの先に積荷をぶら下げたまま、クレーン車は二、三秒ほど、不安定な角度で揺れていた。その隙に、咄嗟の判断で操縦者は 座席から飛び降り、周囲の作業員も一斉に退避した。しかしながら、作業区画の近くにいた見物客の多くは、 クレーン車が轟音を立てて転倒するまで、事態に気づかなかった。

 轟音と共に、クレーン車は倒れた。
 タキオの足元が、地震のように揺れる。

 不意に地響きに襲われた人々は悲鳴を上げ、その場にしゃがみこんだ。

 同時にロミが飛び起き、ニルノを引っ張って走り出す。人を引っ張っている為、エナの誕生パーティで見せたスピードには到底及ばないが、 それでも獣のような速さだ。
 混乱に乗じて鎖を飛び越え、誰にも見られない内に、ロミは一番近くのコンテナの陰に隠れた。 タキオも、転倒するクレーン車から近くのコンテナの陰に身を隠すと、ロミと視線を合わせ、頷いた。

 二人の視線の間では、運悪く転倒したクレーンにぶつかり、怪我をした仲間を救おうと、作業員たちが慌てふためいている。 今や、己の持ち場を忠実に守っている者は誰もいない。作業員も見物客も皆、事故現場に釘付けだ。

「行くぞ」

 声を出さずに言うと、轟音に驚いて飛び立った海鳥たちが舞う中、タキオは一気に甲板へのタラップを駆け上がった。

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