「だって……」と声を上げかけたところで、ゲラ修正をしている同僚が、向こうのデスクからこちらを見ているのに気づき、 ニルノはひそひそと口元を手で囲った。

「だって君、なんでここの直通番号知ってるんだい? 俺は教えた覚えないよ!」

『この前、こっそりお前のアドレス帳を見させてもらった』

「な、何てことするんだ!」

『悪かったよ。けど、お前のアパートにかけても、いつも留守電じゃねーか』

 うぐぐ、と、ニルノはデスクに置いてあった紙コップのコーヒーを、一口、飲んだ。そして気を落ち着けてから、尋ねた。

「……この前の誕生日パーティーの一件は上手く行ったみたいだけど、その後、どうなんだい? 君、まだ、ワルハラにいるのか?」

『ああ』

「そうか……」

 するとタキオは、藪から棒に

『なあお前、これから二週間ばかし、休み取れないか?』

「はあ? これから? 二週間?」

思わず素っ頓狂な声を上げたニルノを、ゲラ修正に追われているデスク長が、殺気立った目で睨みつける。

 ニルノは慌てて電話を台ごと抱えると、デスクの下に潜り込み、囁いた。

「何言ってるんだ! そんなこと、出来るわけないだろ!」

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