ふうん、と男は、興味があるような、ないような声で呟いた。

「ま、いいけど。俺は言われた通り動くだけだし」

 再び男の軽い足音が鳴り出す。
 ロミはドキッとしたが、幸いにも、それは外へ向かっていった。

「ここからオークションまでは、別行動でいいでしょ? 俺、色々やることあるし」

「やること?」

「こういうのはさ、事前の情報収集と駆け引きが必要なんだよ。誰が何を狙ってて、幾ら用意してて、どのくらい欲しがってるとかさ。特に 僕たちは、資金面じゃ、京単位で財産持ってる奴らには敵わないんだから。……ちゃんと競り落とせたらさ、ご褒美頂戴よね」

 じゃあオークション会場でね、と言い残すと、男の足音はふつりと消えた。

 ロミはじっと、女が出ていくのを待った。ヒールの音は、なかなか鳴り出さなかった。ひょっとして、 このままずっとここにいるつもりなのだろうか、と焦り始めた頃、ようやく女は動き出した。ロミの心臓はまたもや音を立てて鳴ったが、 女はそのままリネン室を出ていった。

 扉の閉まる音がし、元通り、船のエンジン音と一体化した静寂が戻っても、しばらくロミは動けなかった。

「ネリダ博士……」

 やがて、ぽつりとニルノが呟いた。

「どこかで聞いたことあるな……」

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