次から次へとやってくる災難に、ロミはどうしていいか分からず、今にも死にそうなニルノを見つめ、 息を殺すしかなかった。 幸い、今度の闖入者は、こちらまで来ようとはせず、扉口に立ったまま喚き立てている。
 しかし、その声を聞いている内に、ロミはあることが気になり、好奇心に負けて、シーツの間から目を細めた。

 扉口に立っているのは、二、三人の黒服の集団だった。喚いているのは、中心にいる、黒いドレスの女だ。 艶のある亜麻色の髪を洒落た形のボブヘアにし、羽毛のようなつけ睫毛に、唇には真紅の口紅。 十センチ以上はありそうなハイヒールを履いたその姿は、優に百八十センチを超すだろうか。ドレスの肩から伸びる二の腕、 スリットから覗くふくらはぎを見て、ロミは確信した。

「本当にあいつ、どうしちゃったのよ? 誰かあいつの行方は掴めたの?」

 高く装ってはいるが、紛れもない男の声で、女は喚いた。

「駄目です、ボス」

周囲の黒服たちは首を振った。

「方々を探しましたが、完全に行方が知れません。ひょっとしたら、本当にあいつ、死んだのかも……」

「死んだ? 冗談じゃないわ。今回、あいつがこのオークションで一番の目玉になる商品を連れてくるって言うから、出品枠を一つ空けて 待ってたのよ! 大損じゃないの! 今回こそ、『蟻』が最高利益を出すと思ったのに…… これじゃ『蟷螂』や『蝶』の 奴らの、良い笑い者じゃない!」

 女、否、ドレスを着た男が物凄い勢いで、近くにあったカートを蹴り飛ばし、驚いたロミは、咄嗟に顔を引っ込めた。

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