「お、落ち着いてください、ボス」

「落ち着け、ですってえ?」

雷と共に嵐の空を荒れ狂う黒牛のように、女は吠えた。

「あんたたち、分かってんの? ただでさえここ数年、利益が右肩下がりだってのに、ユーラクでまで人身売買が禁止されて、 うちが今どれだけまずいことになってるか! だからこそ、今回の目玉商品には期待してたのに……」

「でも」

と一人が言った。

「そもそも、その目玉商品とやらは、本当に存在したんですかね? あのザネリさんと言えど、幾らなんでもグールの子供を捕まえたなんて、 そんなこと出来るんでしょうか?」

同意するようにざわめく黒服たちを、「お黙り!」とぴしゃりと女は撥ねつけた。

「あいつはねえ、嘘つきだけど、つくならもっとマシな嘘つくわよ」

「じゃあ……」

「そうよ」

 急に女は静かになると、考え深げに言った。

「あいつは仕事に関しては、プロよ。こんな無責任なことするなんて、あいつに限ってあり得ない。 ひょっとしたら、本当に死んだのかもしれない。グールを側に置いてたなら、死ぬ原因なんていくらでも考えられるわ」

 不気味な沈黙が、辺りに降りた。

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