沈黙の陰で、もう限界、と言わんばかりに、口元を押さえたまま、ニルノが白目を剥く。お願い、耐えて! とロミは胸の中で叫ぶ。

「……とにかく、今更騒いだって仕方ないわ」

 自分が一番騒いでいたことを棚に上げ、女はふう、と息を吐いた。

「他の商品に期待するしかないわね。さっきのパーティーで、ヤンネ卿とフェリス・コンツェルン総帥が 一つ頭の双子を競り落とすつもりだって聞いたし、あの二人が競えば、双子に億単位の値がつくかも。今から 焚き付けておくか」

 バサ、と腕にかけていたショールを鳴らし、踵を返す女に、部下の誰かが言った。

「あの、華兎里(カトリ)さん……」

「何よ」

「ザネリはどうするんですか?」

「どうするって?」

 女は高いヒールの音と共に、リネン室の扉を開けた。

「生きてりゃいつかまた帰ってくるだろうし、死んでりゃ二度と会えない。でしょ? それ以上、何をどうしろって言うの?」

 ヒールの音に、黒服たちの靴音が続く。

 扉が閉まるのと同時に、ニルノは立ち上がった。扉へ向かって走ろうとするニルノを、ロミは慌てて押し留めた。

「駄目だよ! まだ近くに、奴らがいる!」

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