『けどどうせ、お前、夏休みまだ取ってないんだろ』

「そうだけどさ、そんな、これからなんて、絶対無理だ! こっちだって仕事の予定があるんだから!」

『じゃあ、いつからなら取れる』

 一瞬、ニルノは言葉に詰まった。

 社会部への異動や、恋人との旅行。思い描いていたスケジュールが、頭の中でぱらぱらとめくれる。

 永遠に無理! と答えようとした矢先、タキオが言った。

『お前の助けを借りたいんだよ』

 ニルノが返事に窮していると、不意に、『ちょっと貸して!』と声が聞こえた。二、三秒、受話器の奥から もぐもぐと音が聞こえたかと思うと、耳元で、はっきりと明瞭な、少女の声がした。

『ニルノがいないと、五千万手に入らないの!』

 それは、赤い髪に燃えるような金色の瞳をした、少女の声だった。ロミは必死な様子で言った。

『ニルノは私たちの仲間でしょ? グールを倒したいって、思ってるんでしょ?』

 なおもニルノは無言だった。

 おい返せ、と後ろからタキオが言うのが聞こえる。

 きつくきつく唇を噛むような間があり、ロミは、胸の底から搾り出すように、言った。

『……私から聞いた話でレインのあんな記事書くなんて…… ひどいよ!』

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