皮肉っているのか、本気で感心しているのか、イマイチ分からぬアリオの物言いに、ロミはやや表情を引き締め、目の前にいる彼を見た。

 片肘で頭を支え、ルームサービスで頼んだチーズの盛り合わせを食べ散らかすアリオは、顔立ちも相まって、まるで鼠のようだ。 背景にある、バスルームやリビングが備わった豪華なスイートルーム、着ているシルクのパジャマが、貧相な体から浮いて見える。
 その姿は、反グール主義を掲げるテロリストにも、世界に名だたる大企業の息子にも、どちらにも見えなかった。

「……そろそろ準備しなくていいの? オークション、後一時間で始まっちゃうよ?」

 ロミが言うと、アリオは手を振った。

「大丈夫大丈夫。早く行ったからって、有利になるもんでもないし」

 と、バスルームの扉が開き、シャンプーと石鹸の香りが、湯気と共に寝室に広がった。見ると、タンクトップにジーパン姿のオリザが、 濡れた髪にタオルをかぶって出てくるところだった。

 その姿にロミは少しどぎまぎしたが、視線は、彼女の右腕に吸い寄せられていた。
 タンクトップから伸びた彼女の右腕は、肩の付け根から先が使骸だった。服に覆われていると分からないが、こうして見ると随分無骨で、 腕と言うよりは銃身に近い。その冷たい鋼は、肩から全身へ広がり、彼女の生身の肉体までも無機物に変えてしまっているように見える。

 烏の濡れ羽になった髪を拭きながら、オリザはこちらに向かってきた。

「このオークションを仕切っているのは、盗品売買専門組織の『蟷螂』だろう。ボスがいなくなって、オークションに支障はないのか」

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