「大丈夫。今日以降に予定されているオークションの延期や中止は聞いてない」 「そうか…… なら、『ネリダ博士の研究レポート』は頼んだぞ」 「はいはい…… って、オリザは一緒に行かないの?」 オリザは自分のベッドに目をやった。 「こいつを、部屋に置いていくわけにはいかないだろう」 ロミも、オリザの視線の先を見下ろした。そこには、青白い顔をしたニルノが眠っていた。ロミはベッドの端に腰かけたまま、 眼鏡の外れた彼の顔をじっと見つめた。 「単に疲れが溜まっているだけだと思うが、昨日から全く起きないしな。もうしばらく休ませた方がいいだろう」 「でも……」 ロミは呟いた。 このままこの部屋に篭もっていたら、いつまでもタキオを探しに行けない。それに、果たして彼らをどこまで信じてよいものか。 右腕が使骸になっているこの女性は、反グール主義組織の中でも古参で知られる『東方三賢人』の現リーダーであり、七百万の賞金首だ。 賞金首リストで彼女の名前を知っていたロミは、リネン室で襲われた時、一か八かで「自分たちも同じ、グールを倒すべく旅している者」と名乗ったのだが―― まさかこんな展開になるとは、思いもしなかった。オリザの使骸から飛んでくる弾丸が止まるばかりか、彼女の部屋に匿まわれることになるなど。 -------------------------------------------------- |