こうして親切にしてくれるのだから、少なくとも敵意はないのだろう。しかし、ロミとニルノを部屋に入れたきり、こちらの事情を尋ねるでもなく、 自分たちの行動について語るでもないオリザの側にいると、何を考えているのか不安になってくる。

 ロミが逡巡していると、こちらの考えを読んだように、オリザが言った。

「お前も一緒にオークションに参加してきたらいい。お前の相棒とやらも、ひょっとしたらそこに顔を出すかもしれない」

 ロミははっと顔を上げ、すぐさま頷こうとしたが、寸前で、迷ったようにニルノを見下ろした。その様子を見たオリザは重ねて 言った。

「こいつに危害を加えないか、心配しているのか? それなら、アリオが人質だ。こいつに何かあったら、アリオを好きにしていい」

 ロミはオリザの顔を見た。横を向いてミネラルヲーターを飲むオリザの視線は、冗談を言っている風でも、気分を害している風でもなく、淡々としていた。

 そこでようやくロミは決意し、アリオと共に、二日目のオークションに参加することになった。

「……オリザさん、どうして私たちのこと助けてくれたのかな」

 一等客室を出て、アリオと共に船楼最上階の広間へ向かいながら、ロミはぽつりと呟いた。

「そりゃあ君たちのこと、同志だと思ったからじゃない?」

 やはりオークションに参加する多くの乗客が、カタログを手に、二人と同じ方向へ歩いていく。オープニングパーティー程ではないがきちんとした 格好の人々の中で、アリオは上等なネクタイを締めていたが、シャツが皺だらけなせいで、やはり周囲から浮いて見えた。 最上階へ昇るエレベーターの中で、ロミはこっそり鏡に映った自分の姿を確認し、ジャンパースカートの皺を伸ばした。

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