「でも、もっと色々聞かれるかと思ったけど、何も聞いてこないし、逆に、そっちのことも何も喋ってこないし……」

「オリザは必要以上に喋らないからね」

 エレベーターが最上階につくと、すぐ目の前がオークション会場だった。

 どこかにタキオがいないか目を配りながら歩いていたロミは、会場の入り口にも中にも黒服を着た『蠍』の人間たちが大勢いるのを見て、 足がすくみそうになった。
 広い会場には白い椅子がずらりと並び、すでに半分以上が埋まっていた。アリオを追いかけるようにして会場に入ったロミは、 いそいで会場内を見渡したが、タキオの姿はなかった。

「自分のこと詮索されるのも嫌だし、他人のこと詮索するのも嫌なんだよ。とりあえず君らに敵意がないって分かったから、 それでいいと思ってるんじゃない?」

「じゃあ私たちが同じ反グール主義のテロリストだって言うの、信じてないの?」

 アリオは後方に空いている席を見つけ、だらしなく腰を下ろした。タキオがいない失望を表に出さないよう努めながら、ロミは囁く。 隣の席には、ダイヤの指輪を嵌めてカタログを開く婦人。前列には、出品される商品について大いに談義を賑わせる男たち。 気を抜くと、見知らぬ彼らが自分を監視しているような錯覚に襲われ、顔が強張りそうになる。

「別にそういうわけじゃないんじゃない? だけどほら、テロリストなんて、政党みたいなもんだから。『より良い社会の為に』って大義は同じなんだから、 一致団結すればいいのに、何故かそれが出来ないんだよねえ」

 ロミは瞬きし、思わずまじまじとアリオを見た。

「……オリザさんも不思議だけど、アリオはもっと変わってるね」

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