あ、勿論そっちは自分のポケットマネーでね、とアリオが付け加えた時、ベルが鳴った。

 同時に照明が落とされ、群集は一斉に静まり返った。

 ロミは息を呑み、大人たちと共に壇上へ視線を向けた。
 そこだけ丸く照らされた照明の中に、臍までもありそうなダイヤのネックレスをギラギラ光らせて、背の高い女が現れる。

「皆様、お待たせいたしました」

 低い声でそう言って、女は濃い口紅を引いた唇の両端を、にっこり持ち上げた。
 あっ、とロミは思った。あれは、リネン室で部下たちと話していた、人身売買専門組織『蟻』のボス、カトリではないか。

「二日目のオークションの開催に当たりまして、『蟷螂』のパントが挨拶をする予定でしたが、都合により、私『蟻』のカトリがご挨拶 させて頂きます」

前置きを聞いて、アリオは言った。

「ふーん。『蟷螂』のボスが行方不明になったのって、本当っぽいね」

 だとしたら、やはりタキオの仕業だ。
 ロミはこっそり暗い会場を見回したが、彼女の背丈では、ごく周辺の人間の顔しか見えない。

 計画では、こんな早い段階で事を起こす予定ではなかった。何か、そうせざるを得ない状況に、タキオが 追い込まれたのだ。
 そう思うと、急に、息が苦しくなってきた。壇上のカトリも会場の黒服たちも、皆とうにロミの正体に気づいていて、こちらの 首を取るチャンスを窺っているような、気がしてくる。

 ――そう、エナの誕生パーティーに紛れていた、自分たちのように。

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