「お次はカタログ三十八番、世界的な脳科学の権威にして、かの東方三賢人の一人、ネリダ博士が書き記した研究レポート!」

 ロミははっと顔を上げた。

 進行役は、輝くような笑顔で腕を広げた。

「最低落札価格は千二百万! 千二百万からどうぞ!」

 一斉に、何かに挑むように、腕が上がる。そこから、かしこから。研究者風の若い女性も、金のネックレスをつけた目つきの悪い男も、 周囲を部下で固めて座る経済界の大物も。

「千五百! 千七百! 二千! 三千!」

 何なの? と呆気に取られて、ロミは呟いた。どうして皆、そんな役に立たない物を。

「数ある反グール主義組織の中でも、『東方三賢人』は唯一、ワルハラ前領主を倒したという具体的な実績を上げた組織だ。 けれどネリダ博士を含む三人の創立者は、ほとんど同時期に、彼らの技術の全てを持って組織から姿を消し、 以降の『東方三賢人』は他のテロリストグループと同じ、高尚な目的を掲げるだけの組織に成り果てた。 ネリダ博士の研究レポートを読み解くことが出来れば、組織がかつて持っていた、世界を変える力を手に入れることが出来ると、 オリザは思っている。勿論、オークションに参加している他の人間たちも」

 そう言うなり、アリオは立ち上がった。

 周囲の視線が、彼に注目する。

 不意を突かれたように進行役が言葉を途切らせ、黒服たちが警戒の目を向け、成り行きを見守っていたカトリが視線を鋭くする。
 ロミも固唾を呑んで、彼を見守った。

 周囲が見つめる中、彼はブイサインを掲げ、高らかに宣言した。

「一億!」

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