洗面室から出ると、ルームサービスはもう届いていた。ニルノは濡れたポロシャツの襟を拭くのもそこそこに、高級木材の大きなテーブルに 着くと、がつがつとサンドウィッチを食べ始めた。

「ねえねえ、作戦て一体何なのさ」

 ニルノの向かいに座り、真剣な表情で船内見取り図を調べるロミに、一人の男が、枝に引っかかる凧のようにつきまとう。 お世辞にも、器量良しとは言えない顔だ。ニルノは咀嚼しながら記憶を辿り、ようやく彼がロミに気絶させられた男だと思い出した。

「ねえねえ、教えてよ〜。色々助けてあげたんだからさ、それくらい良いじゃん。絶対、誰にも言わないからさ〜」

ロミは見取り図に目を落としたまま、黙っている。

「止せ、アリオ」

と隣の寝室から、オリザが顔を出した。

「彼らを匿ったのは、こちらの一存だ。礼を言われる覚えもない」

 ロミが唇を噛むのを、ニルノは見た。金色の瞳が、揺らいでいる。
 駄目だ、とニルノは念を送った。彼らが味方である保証なんて、どこにもない。ひょっとしたら、最後の最後で、エイト・フィールドに 俺たちを売る気かもしれない。

 扉の枠にもたれ、静かに腕を組んでこちらの様子を見守るオリザに、唇を尖らせるアリオ。反グール主義を掲げる、テロリストたち。 何の利益も無しに、見ず知らずの密航者を匿うはずがない。

 ニルノの念が通じたのか、ロミはそのまま、何も言わなかった。ニルノはいそいでサンドウィッチをたいらげると、ロミを連れて、 立ち上がった。

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