闇の商品と闇の人々、そして巨額の小切手を乗せたこの豪華客船が、無事に港に着くことを、誰も、露ほども疑っていない。

「お客様」

 と、不意に後ろから声をかけられ、ニルノは飛び上がった。

 すわ一巻の終わりか、と思ったが、声をかけてきたのはエイト・フィールドではなく、パーサーだった。 まだ年若いパーサーは礼儀正しく微笑み、折り畳んだ紙を差し出してきた。

「落とされましたよ」

それが、ロミがどこからか盗ってきた船内見取り図だと知り、ニルノは冷や汗をかいたが、パーサーは中を検めることもなく、こちらに渡してきた。

「顔色が良くありませんが、大丈夫ですか?」

「はい、あ、いや、大丈夫です」

しどろもどろに言うと、パーサーはにっこり笑った。

「失礼いたしました。それでは、良い船旅を」

 汗ばんだ掌に船内見取り図を握りしめ、ニルノは、彼の後ろ姿を見送った。

 二人はそのまま、エレベーターを使って船楼に上がり、そこから甲板へ出た。

「……綺麗だね」

 救命ボートの下で足を止め、ロミがふと呟いた。その瞳は、どこまでも広がる青い海原を映していた。

 ニルノも水平線に目をやり、「うん」と頷いた。

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