熱い潮風。細胞の一つ一つを洗っていくような、潮の香り。空は快晴、穏やかな海原を、大きな塩の結晶のような純白の船が、進んでいく。
 乗船三日目にして、ようやく陽光の下で見たユニコーン号は、永遠に海上を彷徨う楽園のようだった。甲板にいる人々は皆、幸せそうだ。燦々と降り注ぐ陽光に照らされ、陰鬱な顔をした者など、一人もいない。望みの品を競り落とせた者も、競り落とせなかった者も、 周囲に目を配る黒服たちですら、順風満帆な航海に感謝と別れの言葉を告げ、三日ぶりの陸地に、思いを馳せているように見える。

「今回の船旅は、いかがでしたか」

 周囲の景色と、隣の少女を眺めていたニルノは、深くしわがれた声に、顔を上げた。真っ白な水兵服、そして船長の帽子をかぶった老人が、 いつの間にか隣に立っていた。

 ああ、とも、ええ、ともつかぬ声を、ニルノは口の中で呟いた。躊躇うような間を置いて、ニルノの隣から、 ロミが恥ずかしそうに言った。

「色々びっくりしました。私、こんな豪華な船に乗ったの、初めてだから」

老人は日に焼けた顔で微笑み、後ろを振り仰いだ。

「美しい船でしょう。これほど美しい船は、世界中を探しても、ユニコーン号以外にはありますまい」

 ニルノとロミも、一緒に見上げた。そこには、銀色のユニコーンが描かれた、純白の煙突があった。煙突の先からは灰色の煙が流れ、 潮風に消えていた。

 船長は穏やかな、それこそ海のごとく深い瞳で、ロミをまっすぐ見下ろした。

「ユニコーン号に乗り、皆さんの貴重な一時にお供したことは、私の誇りです。後六時間ほどですが、どうぞ良い船旅を」

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