とにかく、たった二つ言えることは、二人ともリネン室にはもういないと言うこと、しかし救命ボートに乗って脱出したわけでもない、 と言うことだった。

 二人に何があったのだろうか?

 自分がリネン室に戻ってきた時の状況を、タキオは頭の中で再現する。


『――そんなところにいやしないわよ』

 今からおよそ九時間前、パーサーから予定表と見取り図を手に入れて、リネン室の近くまで戻ってきたタキオが見たのは、 八百万の賞金首で、人身売買専門組織『蟻』のボスである、カトリの姿だった。


 タキオは咄嗟に通路の角に身を隠し、彼女の様子を窺った。カトリはリネン室の入り口に立ち、眠そうに欠伸をしながら、中に 向かって言った。

『言ったでしょ? さっきあたし、そこ入ったけど、誰もいなかったんだから』

『何だって、こんなとこに入ったんだ』

『むしゃくしゃしてて、何か蹴りたかったのよ…… 悪い?』

 しばらくすると、男が首を振りながら出てきた。スキンヘッドに竜の刺青を施した体格の良い男だ。千六百万の 賞金が懸かっている、暗殺専門組織『蠍』のボス、寿安(ジュアン)だった。

『確かに誰もいないな』

子犬くらいなら一発で跡形もなく吹き飛ばしてしまうような、大口径のショットガンを肩に担ぎ、ジュアンは言った。

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