どこで航路を誤ってしまったのか。まっすぐ進んできたはずなのに、何故こんなところに漂っているのか。

 俺たちの船は、こんなにも美しかったはずなのに。


 ニルノは塩の柱のようになった足を、一歩踏み出した。

 自分には、彼女と共に行く資格はない。けれど、こんな、まだ十二、三歳の少女が、自ら進んで楽園を去り、地獄へ潜ろうと言うのに、 一人おめおめと残るわけにもいかない。

 二人は明るい甲板を去り、機関部へ潜っていった。

 複雑な船内見取り図に従って何とか目的地に辿り着き、そっと扉を開けてみると、中は暗く、轟音が鳴り響いていた。
 名称も分からぬ巨大な機械や縦横無尽に壁を這うパイプ、そして上空には、作業用クレーンの滑車が揺れている。 船員の一人や二人いるものと思っていたが、予想に反して、機関部に人の気配はなかった。扉のところから、ロミはそっと声を上げた。

「タキオ?」

「よう」

「ぎゃっ!」

 不意に機械の陰からタキオがぬっと顔を出し、ニルノとロミは飛び上がった。

 しかし驚きは、すぐ喜びへと変わる。
 暗く、悲壮感さえ漂っていた表情は、たちまち笑顔になり、ロミはタキオに飛びついた。

「タキオ! 生きてたんだね!」

 首筋にかじりつかれたタキオは、無精髭の生えた顔に、いつもと変わらぬ飄々とした笑みを浮かべながら、「よう」とこちらにも片手を上げてみせた。
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