何か言いかけた、ロミの唇が止まる。

 ニルノも思わず息を呑んで、次に続くタキオの言葉を待った。

「――ま、今更んなこと言ったって、仕方ない」

 鋼のごとき灰色の瞳が、まっすぐに光る。

 タキオは顔を上げると、右腕を振ってみせた。

 ジャンパーの腕が、ひらひらと、紙のように揺れた。明らかに、肩から先に、何も入っていない。
 タキオは左手で、後方に親指を向けた。

「もう爆弾はセットしてある。時限装置も、発動させた」

 ニルノは唾を飲み、タキオの指先を追った。

「後四時間で、この船は沈没する」

 そこにあったのは、ずらりと並ぶ筒型のエンジンの奥に取り付けられた、彼の右腕――
 否、使骸に見せ掛け、内部に爆薬を詰めた、時限爆弾だった。

「機関室担当の船員たちは、隣のエンジンコントロール室にいる。そこで計器が異常を知らせない限りは、このエンジン室に入ってくる ことはない。ま、万が一爆弾を見つけられても、素人には解体不可能だ」

タキオは左手で首の後ろを掻き、長々と息を吐き出した。

「やれやれ。いつ自分の右側で爆発するんじゃないかとヒヤヒヤしてたが、流石、ワルハラの職人は腕が良いな」

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