八つ当たりだ。後悔しても仕方の無いことだ。分かってはいるが、そう思わずにはいられない。

 荒々しい風が、灰色の古木の枝葉をかき乱す。その振動は幹を伝い、深く地に根を下ろした根元さえも、ほんの僅か軋ませる。

 不意に、激しい頭痛がタキオを襲った。

「っつ……! くそっ……」

 タキオは思わず眉を寄せ、片手で顔を覆うようにした。脳味噌が重い鉄の塊になり、膨張して、頭蓋骨を突き破ろうとしているような 痛みだ。あまりの痛みに、呼吸すら止まったが、すぐにタキオは肺に命じて、呼吸を繰り返させた。

「久しぶりだな、こんな痛むのは……」

ともすれば呻き声が漏れそうな痛みに耐える為、タキオは屋上の手すりに額を押し付け、思考を口に出した。


 思えばこいつとも、二十四年間の付き合いか。さっさと全て終わらせて、解放されたいもんだ。


 と、こつん、と何かが頭に当たった。

 「?」と顔を上げ、痛む頭に手をやると、何か小さな物が手の中に落ちた。見るとそれは、柔らかく湿った、さくらんぼの種だった。

「……何だこりゃ」

 脂汗の流れる顔で後方を振り仰ぐと、種が飛んできた場所は、すぐに分かった。

 タキオがいるデッキテラスのもう一つ上、船楼の屋上に、一組の男女が立って、こちらを見下ろしていた。

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