タキオはしばらく青年のいた場所を見つめていたが、やがて息を吐き出し、どこか涼しいところで少し休もうと、踵を返しかけた。

 と、ただならぬ視線を感じ、タキオは再び、視線を甲板へ戻した。

 種をぶつけられてきょろきょろしていた男が、じっとこちらを見上げていた。
 おいおい、俺じゃないぜ、とタキオは肩をすくめようとして、 はっと気がついた。

 あの、小太りの体に丸い鼻、黒い髪が耳の後ろまで後退した、どこかの大学教授のような風貌。

 あの男は、盗品売買専門組織『蟷螂』のボス、畔都(パント)だ。

 しかもタキオは、賞金首リストの写真ではなく、彼を一度、直接見かけている。
 どこで、と記憶を探るまでもなかった。
 タキシードを着た男が、菓子が山と積まれたテーブルに着き、ニコニコしながらアスナの挨拶を聞いている姿が、脳裏に浮かび上がる。 そう、エナの誕生パーティーだ。

 落ち着け、と痛みを堪えて頭を猛回転させ、タキオは自分に言い聞かせた。俺はあの時、ただの招待客の 一人だった。あいつは主賓席にいたが、あの辺りの席にいた奴らは皆、銃撃戦が始まると真っ先に退避していた。 俺があのグラサン野郎を相手にしていた場面を、あいつが見ていたはずがない。

 タキオは不自然にならないようパントから目を逸らすと、足早に船内へ戻った。

 一刻も早く、ロミとニルノを見つけなければ、とエレベーターで階下へ降りていきながら、タキオは思った。頭は割れるように痛むが、 休んでいる場合ではない。すでに一度探したが、もう一度機関部へ行ってみよう。

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