ユニコーン号機関部で最初の爆発が起きたのは、九月十一日の午後三時二十六分、終着地であるタラ島まで後五時間弱の地点だった。

 世界最大の豪華客船沈没は、世紀の大事件として、連日、各国のニュースを賑わせた。

 犠牲者はユニコーン号船長、伊阿児・蔵人(イアゴ・クロード)、そして乗客百四名。
 百四名の乗客が、全員、犯罪組織『世界協定(エイト・フィールド)』であったと判明した辺りから、事件の取り上げられ方は、 いっそう、狂騒的なものになった。船の持ち主であったシー・コン社に捜査が入り、ユニコーン号で闇オークションが行われていたこと、 そもそもユニコーン号はエイト・フィールドのボス、ワトムの持ち物であったことが判明し、そこから芋蔓式に、辛くも水死の難を逃れた 多くの企業経営者、資産家たちが、エイト・フィールドとの癒着の罪で逮捕された。

 生存者の証言、その後の捜査などから、今回の事件は機関部に仕掛けられた爆弾によるものと判明したが、爆弾を仕掛けた犯人については、 とうとう分からず仕舞いに終わった。乗客は全員、乗船前に厳しい持ち物検査を受けていたこと、当時船に密航者がいるという噂が広まっていた ことなどから、捜査に当たったレトー警察は、エイト・フィールドの対抗組織の仕業ではないかと推測し、幾つか目ぼしい組織を逮捕して、 犯人と発表した。しかしそれは警察の威信を保つ為の芝居に過ぎぬ、と人々は陰で噂した。



 ――きっと、私とアリオが唯二人、犯人を知る者になるだろう。


 後に海上史最大の事件とも称されることになる、ユニコーン号の沈没。

 救命ボートの上から、沈み行くユニコーン号を見つめながら、オリザはそう思った。 その胸に、茶色の撥水紙でしっかり梱包された、ネリダ博士の研究レポートを抱いて。



 千人以上の人間が、海上から呆然と見守る中、伝説の高貴な生き物の名を冠した船は、船首を最後の夕日に光らせて、海中へ没していった。

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