これは、まずい揺れだ、とオリザは直感的に感じた。

 昇降機の操作に当たっていた船員や、避難のしんがりを務めた客室係の責任者たちと共に、船の手すりに掴まる。ずる、ずる、と足裏が、 真っ白に塗られた甲板の上を滑っていく。頭の隅にアリオのことがかすめるが、今度ばかりは、彼に手を貸す余裕がない。

 手すりを抱え込むようにした肩と腕が呻きを上げ、とうとう靴の踵が、床を離れる。

 頬に当たる夕日が、少しずつ傾いていくのを感じる。
 純白の幻獣が吠えるのにも似た、船が沈む轟音。生身の左腕にかかる、重力と己の体重。海上から上がる悲鳴。

 オリザは水中に飛び込む覚悟をして、歯を食いしばった。

 と、そこで、船の動きが止まった。

「今だ!」

 と背後でクロードが怒鳴った。

「ボートを、早く!」

 奇跡的に、甲板の上にいた者は皆、無事だった。船長号令で、船員たちは素早く、残り二艘の昇降機に飛びついた。

 オリザは手すりにしがみついたまま、後ろを振り返った。目を瞑り、必死に手すりにしがみつくアリオの向こうで、ユニコーン号の船尾が、海中に没しているのが見えた。 今手を離せば、海中へまっさかさまだ。

「もう船内に残っている者はいないか」

 とクロードは二等航海士に尋ねた。

「はい。我々で最後です」

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