と、叫び声が上がった。

「まだ、俺たちのボスが残っている!」

 船員たちの手を借り、苦心してボートに乗り込みながら、オリザは彼らと共にそちらを振り返った。

 『蠍』の一人が、手すりに掴まり、銃口をこちらに向けていた。そのサングラスの下から―― あれはまさか、泣いているのだろうか?

 銃口を向けられたクロードは、昇降機の向こうから静かに頷いた。

「おやめ」

 カトリが低い声で言った。

「もうどうしようもないわ。もうジュアンたちは、助からない。ここでこいつを撃ったって、どうしようもないことくらい、あんたにだって分かるでしょ?」

 しかし彼は、銃口を下ろさなかった。引き金も引かず、ただ銃口を突きつけていた。

 と、彼の前にいた二等航海士が、不意に振り向き、片手で彼の手を打った。不意を突かれた彼は、銃を取り落とし、そのまま、銃を追いかけるようにして、 遥か下方の海面へ落ちていった。

 仲間たちがすぐさま銃を取り出すかと思ったが、彼らはただ、無言だった。

 遥か下方でパシャン、と小さな音が聞こえた後、クロードは、静かに言った。

「私は船に残ります」

--------------------------------------------------
[532]



/ / top
inserted by FC2 system