エッダも笑って、ルツと一緒にマリサの頭を撫でた。後ろでは、彼女の夫が不機嫌な表情で新聞を読んでいた。

 レイン一人残すことについてエッダたち一家の間で一悶着持ち上がったことも、レインは誰に聞くでもなく、 何となく勘付いていた。どちらかと言えば消極的な態度だったルツに、エッダが強引に勧めたこと。そのことでエッダと夫が、 夜中、外で大喧嘩したこと。結果、ルツがエッダの家の中で肩身の狭い思いをするようになったこと。

 全て自分のせいだ。

 セムに無言で責められるまでもなく、レインは分かっていた。エッダの家に不和をもたらしたのも、ルツたちを第二都市から追い出したのも、 全て自分なのだと。


 そもそも自分は、あの時、彼に食べられるべきだったのだと。


 子羊が殺される日の朝、レインは一人で厩舎に行った。

「どうせ処分しなきゃならないなら、うちで殺して、お別れの焼肉パーティーでもしようか」

 前の日の晩、トイレに行こうと思って一階に下りた時、台所で大人たちが話していたのを聞いたからだった。
 エッダの提案に、夫も賛成した。ルツはしきりに遠慮したが、それは肉を食べたくないからではなく、レインやマリサが子羊を殺して食べることについて、どう思うか 案じているのだと、扉の陰で聞いていたレインにはすぐ分かった。
 エッダもそのことに気づいたのか、さり気なく言った。

「大丈夫よ。あんたらが荷造りしてる間に、ささっと終わらせちゃうから」

 漆喰と屋根の隙間から朝日が差し込む中で、子羊は眩しそうに瞬きし、しきりにメエメエ鳴いていた。

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