「ここまで来れば、大丈夫だろう」

 港を離れジャングルを抜け、やがてサイレンと人々の喧騒が遠くなった頃、タキオは足を止めた。

 振り返ると、ジャングルの向こうの夜空が、ほんのり桃色に染まっていた。
 ニルノは自分の体を見下ろした。 ジャングルを抜けたせいで全身泥だらけ、三日間着っぱなしだったシャツは、ところどころ破れ、袖のボタンが一つ取れていた。 それらを透かして見ている眼鏡にも、指紋と汚れがこびりついている。

 タキオとロミも、似たような格好だった。タキオの顎には三日分の無精髭が生え、頬も若干こけている。片腕を失い、ジャンパーの 袖をひらひらさせている姿は、戦場から帰ってきた兵士のようだ。ロミも、かぶっていた帽子をとっくに何処かに落とし、 ぼさぼさになった赤い髪に、葉っぱやら虫やらがついている。救命ボートに乗るのを待っている間に、サンダルが脱げてしまい、 何も履いていない金色の足で、湿った土の上に立っている。

 三人はしばらく、無言で息を弾ませていた。
 汗と泥でべたつく体と、衣服の間を、涼しい体が通り抜ける。抜けてきたジャングルから 漂ってくる、濃い花の香り、獣の匂い。辺りを飛び交う羽虫に、甲高い鳥の鳴き声。闇はあっという間に濃さを増し、空には星がますます輝いていく。

 やがてニルノは、重い腕を動かした。無言でポーチからビデオカメラを取り出すと、テープを抜いて、タキオの前に差し出した。

「ありがとう」

 とロミにテープを受け取らせ、タキオは言った。

「アスナの首に、マノンの首。それにこのテープをエイゴンの賞金換金所に持っていけば、確実に五千万以上になる」

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