ジーパンの尻ポケットから出した撥水紙にノートを丁寧に包み、ジャケットの内側に入れると、 オリザは積荷の山から飛び降り、アリオを揺すり起こした。

「目的の物は手に入れた。行くぞ」

 まだ目が回っているような顔をしているアリオを引っ張り、オリザは船倉を飛び出した。
 フェリス・コンツェルンの総帥のような人間が他にも来るのではないかと思ったが、廊下はサイレンが鳴るばかりで、静かなものだった。 船体の傾きは特に感じないが、エンジンの音が止まっていることに、オリザは気がついた。

 黒服たちの死体を飛び越え、エレベーターへ走ると、果たしてエレベーターは止まっていた。絶望に呻くアリオを引き摺り、オリザは階段へ走った。 骨組みに鉄板が渡されただけの簡単な階段を、甲板に向かって駆け上がる。幅の狭い階段は、何回も何回も折り返しても、一向に終わらない。

「もう無理。これ以上走れない。僕のことは置いてって」

 早くもへばり、狭い階段に犬のように崩れ落ちるアリオを叱責しようとした時、再び、大きな爆発音がした。

 船体に大きな衝撃が走る。オリザは足を踏み外し、アリオと共に、階段の下へ滑り落ちた。幸いにも、数段下が踊り場だったが、 そこで体を打ち付けても、揺れはまだ収まらない。否、ますます大きくなっていく。

 突然、大きな縦揺れが横揺れに変わり、船体が大きく傾いた。

 体の下の床が、傾いていく。零度が十度、三十度、そして九十度の角度へ。

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