青年はにっこり微笑むと、老人が救命ボートに乗るのを手伝った。青年の隣に座っていた令嬢が、哀れな表情で手を伸ばした。

「ああ、私の運命の人!」

「ごめんね」

降りていく救命ボートに、青年は手を振った。

「君と僕とじゃ、所詮身分違いだったんだ。どうか良い人を探しておくれよ」

令嬢の投げキスに笑って返し、救命ボートが海上に下りたのを確認すると、青年は後ろを振り向いた。
 老人の秘書はとっくに身の安全を求めてどこか別のボートへ逃げており、そこには、双子がただぽつんと取り残されていた。

 青年は双子の元へ行くと、しゃがんで彼女たちを見上げた。

「おや、手首の関節が外れているね」

青年はそう言うと、双子の片方の手首を取り、いとも簡単に関節を嵌めた。双子は同時に痛みの声を上げたが、やがて手首が元通り 動くことに気がつくと、揃って戸惑いの表情を青年に向けた。青年は立ち上がり、二人の肩に手を置いた。

「大丈夫。さあ、僕と一緒に行こう」

「あのジジイ、死ねば良かったのに」

 と、そこでアリオが呟いた。

 オリザは青年から目を逸らし、アリオを横目で見た。

「ああいうジジイみたいな奴が生き残ってさ、良い人間に限って早く死んじゃうなんて、世の中は不公平だよ」

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