「……何でお前らそんな、イオキを探してるんだ」

 冷静に、言葉を選ぶ余裕もない。頭の奥で栓を抜くように、言葉が迸る。

「あいつがグールだって、お前やザネリは話してたけど…… どういうことだ? 何でグールが、あんなところにいたんだよ!」

 自分でも正体が分からぬ激情に駆られたまま、椅子を蹴って立ち上がりかけ、ユーリは息を止めた。

 否、正確には、止められた。
 ユタの、長い指によって。

「騒ぐな」

 魚か何かを掴むように、無造作にユーリの首を掴んだユタは、顔色一つ変えないまま、少しずつ指の力を増していった。
 ユーリはもがいたが、無駄な抵抗だった。呼吸が出来ない苦しみに加え、喉から体が八つ裂きにされていくような激痛が、広がっていく。

 死ぬ、と言う一言が、脳裏に浮かぶ。

「貴様には関係のないことだ」

 極々静かなトーベの言葉が、無数の火花となって、耳へ入ってくる。

「小僧、お前には分からないのか? 魔女が棲む森の中で、獣の牙に狙われていることが。このまま牙に引き裂かれるか、 月明かりを頼りに森を抜け出すか、お前の末路はそのどちらかしかない」

 背後にある衝立の向こうで、男が大声で下品な冗談を言い、女たちが甲高い笑いを上げるのが、夢のように朧げに聞こえた。

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