ユーリは死に物狂いで首を振った。解放してやれ、とトーベがユタに合図すると、ユタは指を離した。 ユーリは磨かれた石の床に膝をつき、肺が裏返しになりそうな勢いで咳き込んだ。

 トーベとユタが、冷たい視線でこちらを見下ろす。

 やがて咳が収まると、ユーリは床に膝をついたまま、しゃがれた声で言った。

「……イオキは、一緒にボートに乗った…… けど、港を出てすぐ、大きな波に襲われて、あいつだけボートから落ちた」

 ユタが鋭く尋ねた。

「場所は?」

「よく、覚えてないけど…… 本当に、港を出てすぐだ。灯台の明かりが、見えた」

 トーベは頷き、立ち上がった。まるで何事もなかったかのように、床に膝をつき、肺を波打たせる少年など存在しないかのように、 ユタを従え、ホールの出口へ大股に歩き出す。

「正直に言ったぞ」

ユーリは呟いた。

「だから、タニヤには……」

 だがもう、そこに秘密警察たちはいなかった。
 代わりにいたのは、ユーリを席へ連れてきたボーイだった。痩せぎすのボーイは、ユーリを見下ろして言った。

「変態の客に気に入られると、大変だな」

 ユーリは唇を噛んだ。出来ることなら、冷たく固い床に身を投げ出し、泣きたかった。己の不幸と、不運を呪って。

 緑色の瞳が、じっとこちらを見つめている。驚いたように見開いた目が。深い森のように枝葉を伸ばし、こちらを引きずり込もうとする瞳が。

 どうしてあんなところにいたんだ。グールのくせに、あんな、瀕死の白鳥のように体を横たえて。

 お前にさえ出会わなければ、俺は今頃――

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